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Dr.半熟卵のつぶやき~女性医療の現場で働く産婦人科医の日記~

Dr.半熟卵のつぶやき~女性医療の現場で働く産婦人科医の日記~

検診のススメ~卵巣嚢腫・卵巣癌~

検診のススメ~卵巣嚢腫・卵巣癌~


1)沈黙の臓器と言われるわけ


 卵巣は別名「沈黙の臓器」と言われています。少々腫れていても、まったく症状が出ないことが多いからなんですね。
 例えそれが悪性、すなわち癌であっても、かなり進行してあちこちに転移したりお腹の中に水がたまったりして、やっと発見される事も稀ではありません。そのため、卵巣癌は「サイレントキャンサー」とか「サイレントキラー」と呼ばれているくらいなんです。
 正常な卵巣は、親指の先くらいの小さな臓器です。だから、これが少々腫れても、お腹の中では大して圧迫感も無ければ痛みも出にくいんですね。
 良性の場合でも、卵巣の腫れが5cmを超えると、卵巣がくるっとねじれてしまう「茎捻転」という状態になる事があります。この時だけは、お腹に激痛が生じますので、緊急で病院に運ばれて手術になる事もあります。


2)卵巣癌は増えている


 卵巣癌が癌全体の中で占める割合としては3.2%と多くはありませんが、発症率は増えてきています。卵巣癌による死亡率は、1950年には人口10万人対0.8だったのに、約40年後には5.4まで上昇しているんですね。
 これには、食生活の欧米化(コレステロールの摂取量の増加)や喫煙率の増加、妊娠・出産の回数の減少などが原因と考えられています。


3)卵巣嚢腫は若い人に多い


 卵巣嚢腫は、卵巣の良性腫瘍の総称です。つまり、卵巣は腫れているけれど癌ではないものをまとめてそう呼んでいるんです。
 卵巣癌になりやすい年齢は閉経前後、つまり40~50歳代ですが、卵巣嚢腫は逆に20~30歳代の若い女性に多く見られます。
 卵巣の組織はとても複雑で、卵巣嚢腫の元になっている細胞が何かによって何種類もの分類があります。その分類を詳しく書いてもあまり意味がありませんので、ここではちょっと注意が必要な2種類のタイプだけをご紹介します。
  成熟奇形腫⇒名前はおどろおどろしいですが、若い人に割とよく見られる良性腫瘍です。これ自体は良性なのですが、放置して
           おくと稀に悪性化することがありますので、大きくならないうちに手術しておく方がいいタイプのものです。
  チョコレート嚢腫⇒卵巣に子宮内膜症が出来ると、古い血液が卵巣の袋にたまって腫れていきます。月経がある間は大きくなって
              いく危険性があり、途中で破裂する事もあります。ピルや月経を止める治療で進行を抑えておいた方が
              いいタイプのものです。あまり大きくなりすぎたものに関しては手術する必要性が出てきます。


4)どうすれば発見できる?


 卵巣の腫れを発見する方法は、膣からの超音波検査やCT・MRIなどの画像検査です。ある程度の大きさになれば、触診、つまり触っただけでも分かりますが、ほとんど正常と変わらない程度の腫れですと、触るだけではわかりにくい場合もあります。
 ただし、検診で年1回CTやMRIをとるというのは、かなり非効率的ですし、医療費の無駄使いになってしまいます。子宮癌検診を受ける際に、一緒に膣からの超音波検査をすれば、卵巣の腫れもチェックできますし、子宮筋腫や子宮内膜症がないかどうか、子宮内膜が分厚くなりすぎていないかなどの確認も一緒にする事が出来ますよ。
 超音波検査は自費になってしまいますが、どうせ検診を受けるなら、ぜひ一緒に診てもらう事をおすすめします。


5)絶対手術しなきゃダメ?


 最終的な治療方針は、検査の所見と、症状と、本人の希望によってケースバイケースですから、これはあくまでも参考程度にお読みくださいね。
 卵巣が腫れていたら、即手術、というわけではありません。まずは、見た目上悪い物で無いかどうかを超音波・CT・MRIなどで調べ、血液検査で腫瘍マーカーというものの数値を調べます。
 少しでも悪性の疑いがある場合、手術をすすめられる事がほとんどです。というのも、卵巣癌の最終的な診断は実際に腫れている卵巣の組織をとってきて、顕微鏡で細胞の形を見て、初めて確定するからなんです。
 明らかに良性の場合は、大きさにもよりますが、まずは半年毎に大きさをチェックして様子を見ましょう、となる事が多いですね。
 ただし、良性でも上で書いた「茎捻転」の状態が疑われる場合は、手術した方がいいケースもあります。


6)予防方法はある?


 卵巣癌は、繰り返し起こる排卵によって卵巣の壁が傷つく事が原因の一つと言われています。そのため、お産を多く繰り返した女性や経口避妊薬=ピルを飲んでいた女性には卵巣癌の発生が少ないというデータが出ているんです。実際、ピルを5年間飲み続けると卵巣癌のリスクを6割減らす事ができ、その効果は服用中止後も15年間続きます。
 また、卵巣嚢腫や子宮内膜症もピルによって予防したり進行を抑えたりすることが出来ます。
 ピルを飲むだけで、卵巣癌の予防になるとはいえないかもしれませんが、リスクをかなり減らしてくれる事は確かです。卵巣にとって、排卵を何度も繰り返すということは、非常に負担になるんです。
 これ以外にも、禁煙とコレステロールを取り過ぎないようにする事が大切ですね。


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